「不動産鑑定」、「鑑定評価ではない査定」、「仲介査定」の違いとは?
依頼すべき場面を解説

不動産の価格を知る方法には、国や地方公共団体が公表している、地価公示、相続税路線価、固定資産税評価額などのいわゆる「公的評価」のほかにも、民間事業者の代表的な評価方法として、①「不動産鑑定」、②「鑑定評価ではない査定」、③「仲介査定」の3つの方法があります。
この「不動産鑑定」、「鑑定評価ではない査定」、「仲介査定」には一体どのような違いがあるのでしょうか。
この記事では、これら3つの違いについて解説します。
1. 不動産の価格を知る方法
不動産の価格を知る方法には、まず、法に準拠して不動産鑑定士等(以下、鑑定士等)が査定する「不動産鑑定」があります。国家資格を有する専門家である鑑定士等が不動産鑑定評価基準に準拠して行うため、最も価格の精度と信頼性が高い方法です。
一方、「不動産鑑定」以外の方法として、鑑定士等が実施する「鑑定評価ではない査定」、鑑定士等以外が実施する「仲介査定」があります。
主な違いは下表の通りです。
評価方法 | 不動産鑑定 | 鑑定評価ではない査定 | 仲介査定 |
---|---|---|---|
評価主体 | 鑑定士等※1 | 鑑定士等 | 仲介業者等 (誰でも実施可能) |
書面を作成できる人 | 鑑定士等のみ | 鑑定士等のみ | 誰でも可 |
不動産鑑定評価基準への準拠 | 必要 | 可能な限り準拠する | 不要 |
裁判等の証拠資料等としての有用性 | 高い | 相応に高い | 低い |
依頼目的 | 様々な用途に対応 (一部限定あり) |
様々な用途に対応 | 売買の参考 |
費用 | 有料 | 有料 | 無料 |
※1 鑑定士等とは、不動産鑑定士及び不動産鑑定士補
不動産の価格査定を業として有償で行う行為は、法律上、登録された不動産鑑定業者に所属する鑑定士等のみが行うことができます。
「不動産鑑定」は、不動産鑑定評価基準に準拠して鑑定士等が行うため、公的な信用力や証拠能力が高く、評価書は税務署に対する説明資料や裁判の証拠資料等にも用いることができます。一方、相対的に費用が高額で、書面の作成に一定の時間もかかります。
鑑定評価として査定できない場合、もしくは、鑑定評価までの精度が必要ない場合等に用いられる「鑑定評価ではない査定」は、鑑定士等が作成するため一定の説得力はあるものの、不動産鑑定評価基準には完全に準拠しておらず、一定の前提条件のもとに算出された価格であるため、税務署や裁判所等への説明資料や証拠資料に用いることには適していません。社内の説明資料等に用いられるケースが多く、費用も「不動産鑑定」ほど高額ではありません。
「仲介査定」は、主に不動産売買の参考として利用されます。費用はかからないものの、査定者の資格・スキルや査定方法にルールが存在しないため、査定額の精度や信頼性が担保されない点は注意が必要です。
次項では、各評価方法について詳しく解説していきます。
2. 不動産鑑定
2-1.不動産鑑定ができる人
不動産鑑定とは、不動産の評価能力が認められた国家資格者である鑑定士等が不動産の経済価値を判定することです。
「不動産鑑定評価書」と名の付く書面は、不動産鑑定業者に所属する鑑定士等しか発行できず、不動産鑑定は鑑定士等の独占業務となります。
2-2.不動産鑑定評価基準
不動産鑑定は、鑑定士等が国が定める不動産鑑定評価基準に準拠して行われることが定められており、評価者の能力および評価手法の両面から信頼性が担保されていることが最大の特徴です。
不動産鑑定評価基準には、不動産の評価方法の考え方が示されており、例えば不動産の価格を求める際は原則として費用性と市場性、収益性の3つの側面からアプローチするものとされています。
2-3.証拠資料としての有用性
評価者及び評価手法が厳密に定められている不動産鑑定評価基準に準拠して作成された不動産鑑定評価書は、価格に対する精度や信頼度が担保されています。そのため、不動産鑑定評価書は証拠能力が高く、裁判の証拠資料や税務署に対する説明資料として用いられます。
2-4.依頼目的
不動産の「現時点」の「あるがまま」の状態を評価するのではなく、依頼目的に応じて「●●の場合の価格」といった前提条件付の評価を行う場合があります。ただし、条件を付して求められた鑑定評価結果は、それを利用する当事者や関係者の利害に影響を及ぼすことから、設定する条件は「実現性」および「合法性」の観点から妥当であることが必要とされています。
例えば、「建築予定の建物の、工事が完了しているもの」としての価格を求めたい場合、公的な建築確認を取得済で、設計図書等により完成後の建物の確認が可能であり、かつ、発注者の資金調達力や請負者の施工能力等から工事完成の実現性が高いと認められる場合に、不動産鑑定評価書を作成することが可能です。しかし、これらの要件を満たさず、想定した通りに建物が建つ保証(実現性)がない場合には、原則として不動産鑑定評価書の作成は認められていません。
不動産鑑定評価書として算出された鑑定評価額は、依頼者のみならず第三者にも影響を及ぼすため、条件設定をできるケースは厳密に定められており、条件を設定する場合はその妥当性を検証するとともに、利用者に誤解を与えないよう鑑定評価書に依頼目的及び条件を明記することが定められています。
2-5.費用
不動産鑑定は有料です。不動産鑑定事務所ごとに独自で手数料を決めているため、複数社から見積もりを取ると良いでしょう。
費用は物件の種類や評価額によって異なり、30~100万円程度です。
2-6.利用場面
「不動産鑑定評価書」は、精度や信頼性が法的にも担保されており証拠資料として有用であるため、裁判では不動産の価格だけではなく、賃料や地代、立ち退き料に関する訴訟においても不動産鑑定評価書が使用されます。また、関連会社間もしくは代表者個人とその代表者が経営する法人との間で不動産を売買する際の、税務署に対する説明資料としても有用です。
関連会社間の売買等では、価格操作によって脱税ができる取引関係にあることから、適正価格で取引したことの証拠を残すために不動産鑑定評価書が用いられます。
その他、築年数の古い土地建物を売買するときに、消費税額の把握や帳簿上の土地建物の内訳価格を確定させることを目的に不動産鑑定評価書を取得することもあります。
また、ゴルフ場やスキー場、沼、権利関係の複雑な物件等の特殊な不動産の価格を把握したい場合や、投資家への合理的な説明が求められるJ-REITや私募REIT等の保有物件を評価する場合にも不動産鑑定評価書が利用されます。
3. 鑑定評価ではない査定
3-1.鑑定評価ではない査定ができる人
業として不動産の価格を算定する行為は、不動産の鑑定評価に関する法律上、鑑定士等のみが実施することができます。そのため、不動産鑑定評価に準拠しない簡易な価格査定であっても、鑑定評価と同様に鑑定士等が行う必要があります。不動産鑑定評価基準に準拠しない形で求められた価格は「鑑定評価ではない査定書(調査書、査定書等)」として発行されます。
3-2.不動産鑑定評価基準
鑑定評価としては認められない想定条件に基づく価格を査定する場合や費用削減等を目的に記載事項を省略した簡易な査定書を作成する場合でも、不動産鑑定評価基準に可能な限り準拠し、準拠していない箇所についてはその理由を記載します。例えば、依頼者が不動産鑑定評価基準で定められている詳細な説明や調査などを不要な場合には、その旨を記載し、それらを省略した簡易な査定書を作成することができます。
3-3.証拠資料としての有用性
鑑定評価ではない査定書は不動産鑑定評価基準に準拠していないため、対外的な証拠資料としての有用性は不動産鑑定評価書よりも劣ります。例えば、土壌汚染を考慮外として評価を行った場合、土壌汚染の存在可能性とそれによる価格の差異について、鑑定士等に説明責任が及びません。
そのため裁判所や税務署に提示する資料としては、適していません。
ただし、鑑定評価ではない査定書においても、鑑定士等は可能な限り不動産鑑定評価基準に準拠して査定することが求められており、算出過程も含めて説明責任を負っていることから、相応の信頼性を有しています。
3-4.依頼目的
鑑定評価ではない査定書は、実現性、合法性などが担保できない想定上の条件の設定も可能であるため、依頼目的に応じた様々な価格を求めることができます。
例えば、建築確認が済んでいない状態で、建築計画に基づく土地建物の価値を把握したいという場合にも、設定した前提条件を明記することで査定書の作成が可能となっています。
3-5.費用
鑑定評価ではない査定書は、有料となります。
ただし一部記載事項や調査手順を省略している場合には、不動産鑑定よりも割安であることが一般的です。
作業工数や鑑定会社の料金基準にもよりますが、費用の目安としては20~40万円程度となります。
3-6.利用場面
鑑定評価ではない査定書は、企業が大量に保有している不動産の価格を査定する場合や、M&Aに際し買主企業が売主企業のデューデリジェンスを行う際など、簡便的に不動産の資産価値を把握したい場合などに多く用いられます。
そのほか、前述のとおり建築確認前の計画建物を前提とした土地建物の価値を知りたい場合や、都市計画が住宅地から商業地に変更されることを想定した場合の不動産価格を査定する場合などでも用いられます。
4. 仲介査定
4-1.仲介査定ができる人
仲介査定は、作成するのに特別な資格は必要ありません。一般的には不動産会社の担当者が作成しています。
4-2.不動産鑑定評価基準
仲介査定書は、不動産鑑定評価基準に準拠していません。
査定方法は、類似の不動産の取引事例から価格を推測する方法が用いられていることが多いようです。
4-3.証拠資料としての有用性
不動産会社は、担当エリア内の不動産取引情報や相場を熟知しており、地域の特性や取引対象となる不動産の特徴などを踏まえて価格を推定します。
しかしながら、仲介査定書は物件の売買を仲介するための査定であり、査定者の資格・スキルや査定方法にルールが存在しないため、査定額の精度や信頼性が担保されないことから、それ以外の用途で利用することに適していません。
4-4.依頼目的・利用場面
仲介査定書は、売却や購入の参考価格を知る場合など、仲介発生時の参考で用いられます。
単に資産価値を把握したいだけの場合は、仲介会社にとっては仲介に該当しないため、査定をしてもらえない可能性があります。
4-5.費用
仲介査定は、無料です。
不動産会社が請求できる手数料は売却が決まったときに得られる成功報酬(仲介手数料)であることから、仲介査定の段階では手数料は発生しません。
まとめ
以上、「不動産鑑定」と「鑑定評価ではない査定」と「仲介査定」の違いについて解説してきました。
不動産の価格は、依頼目的や利用方法に応じて価格が大きく変わります。そのため、不動産の価値を適正に把握するために「不動産鑑定」は非常に有用です。一方で、利用方法や依頼目的如何によっては、「不動産鑑定」では対応できない場合もあります。
特に「不動産鑑定評価書」と「鑑定評価ではない査定書」では、不動産鑑定評価基準に準拠しているか否かの違いがあり、それによって証拠資料としての有用性に差異があります。
不動産の価格を把握したい場合には、「不動産鑑定」や「鑑定評価ではない査定」のいずれを利用するかも含めて、まずは不動産鑑定業者に相談しながらご利用することをおすすめします。
竹内英二
不動産鑑定士・中小企業診断士
不動産鑑定事務所である株式会社グロープロフィットの代表取締役。 不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。土地活用と賃貸借の分野が得意。
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