ソリューションコラム

今こそ既存建築ストックを活用!企業価値向上に資するための活用方法とは?

2024/2/29
今こそ既存建築ストックを活用!企業価値向上に資するための活用方法とは?

既存建築ストックとは、過去に建築され、現在も存在している建築物のことをいいます。

既存建築ストックが築年数の経過により陳腐化した場合や、現在の用途では利用目的を達成できない場合には、建物を建て替えることを選択するケースが多いと思います。しかし、環境面への負荷やコスト低減の観点から改修工事などにより既存建築ストックを活かす選択肢もあります。また、2023年4月から建築基準法が緩和され、以前ではできなかった改修工事もできるようになりました。
改修工事の幅が広がった今こそ、既存建築ストックの活用を検討すべき機会といえます。

既存建築ストックの活用にはどのような特徴があり、どういう視点での活用が企業価値の向上に繋がるのでしょうか。
この記事では、企業価値向上に資する既存建築ストックの活用方法について解説します。

1. 既存建築ストックを活用する意識が徐々に浸透

新築建物への建て替えは、解体による廃棄物の発生や新規の建設資材投入等により一定の環境負荷やコストが生じることに加え、人口減少や既存建築ストックの余剰・建築費高騰等の観点から、既存建築ストックの活用に対する一般消費者の意識が向上しています。また、法律面でも既存建築ストック活用を促進することを目的に、高さ制限や建ぺい率、容積率等が一部緩和されたことで、以前ではできなかった改修工事ができるようになりました。
最初に建築基準法の改正の背景と内容について解説します。

1-1.建築基準法の改正の背景

現在、日本では2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの目標を掲げており、建物に関しては、建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)を中心に、省エネ化の施策が推進されています。
この省エネ化施策の推進に向けて、ビル所有者に対して省エネ改修を促すために、建築基準法が改正されました。

1-2.建築基準法の改正内容

2023年4月に施行された建築基準法の主な改正内容は、省エネ性能向上のための改修工事や機械設備の設置時には、高さ制限、建ぺい率、容積率が緩和されるというものです。
建築物の高さは、原則として都市計画により定められた高さを超過することができませんが、省エネ性能が向上する工事を行う場合で構造上やむを得ない場合には、高さ制限の緩和が認められるようになりました。建ぺい率や容積率に関しても、原則として都市計画により定められた制限を超過できませんが、外壁の断熱改修や太陽光パネルの設置などの省エネ改修工事を行う場合で構造上やむを得ない場合には、緩和が認められるようになりました。

2. 既存建築ストックを活用するメリット

既存建築ストックを活用するメリットは、以下の点が挙げられます。

2-1.事業継続性の担保

改修工事などの既存建築ストックの活用は、現在の環境で事業を継続できるというメリットがあります。建て替えの場合、建て替え作業期間中は他の場所への仮移転が必要になり、引っ越し作業などにより一時的に業務を停止せざるを得なくなります。

2-2.総費用の抑制

建て替えは、解体費用、新築建物の建築費用の他にも仮移転先の確保、引っ越し費用、仮移転先の家賃等が発生します。一方で、既存建築ストックを活用すると、一般的に新築コストより改修コストが低く、移転コストも抑制されます。さらに、むやみに解体をしないことで、環境負荷低減にもつながるほか、省エネ改修を行うことで電気使用料等のランニングコストも抑えることができます。

3. 既存建築ストックを活用するデメリット

既存建築ストックを活用するデメリットは、以下の点が挙げられます。

3-1.構造、用途、仕様等による制約

改修工事は、現存する建物の構造、用途、仕様等により制約を大きく受け、抜本的な改修が難しい場合もあります。
そのため、改修工事などによる既存建築ストックの活用が構造上難しい場合や、活用できたとしても建て替え以上の費用が掛かる場合などは、建て替えを選択した方が良いでしょう。

3-2.想定外の追加工事が発生する可能性

壁や床、天井等の仕上げ材を剥がした際に、竣工図には記載されていない工事が施されていて、想定外の追加工事が必要となる場合があります。

4. ESG投資を意識した既存建築ストック活用

既存建築ストックの活用により、企業価値を向上させるESG投資の呼び込みに寄与することが期待されます。ESGとは、環境(Environment)と社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を合わせた言葉です。
近年は、環境や社会に配慮し、適切なガバナンス(企業統治)がなされている企業には持続可能性があり、成長が見込まれることから、ESGの観点で企業を評価し、投資する機関投資家等が増えています。
ここでは、ESG投資を意識した既存建築ストックの改修ポイントを解説します。

4-1.省エネ性能の向上

上場企業等では、CO2排出量や電力使用量等の環境負荷低減効果の他、気候変動のシナリオに対するリスク管理についての開示規制があります。その他の企業においても、省エネルギー性能の高い建物への改修は、投資家に伝わりやすいアピール材料です。
省エネ性能を向上させるためには、以下のような改修があります。

【省エネ性能を向上させる改修内容(例)】

・高断熱ガラスの導入、既存サッシの交換による断熱性能の強化
・外付ブラインドによる日射遮蔽
・自然換気口追加による自然換気促進
・天井照射LED、太陽光発電や蓄電池の設置による消費エネルギーの軽減・効率化

建物の省エネ化は、節電タイプの空調設備に交換する等の部分的な変更に留まると効果が限定的です。建物自体の断熱性を向上させると空調の効率も高まるため、より効果的な省エネ効果を実現することができます。

4-2.オフィス環境の快適性の向上

快適性に優れたオフィスは、執務環境を改善し、従業員の生産性を向上させるだけでなく、優秀な人材の確保にも寄与します。オフィスの快適性に関しては、「CASBEEウェルネスオフィス」※1と呼ばれる客観的な評価制度があります。
オフィスの快適性を向上させるためには、以下のような改修があります。

※1 CASBEE:Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiencyの略。建物の環境に対する性能の評価のこと。

【オフィスの快適性を向上させる改修内容(例)】

・デシカント空調システム※2の設置
・集中して作業ができる遮音エリアの設置
・ミーティングもできるカフェテリア、座って化粧ができるパウダールーム等の設置

※2 デシカント空調システム:空気から水分を除去し、適切な湿度に調整して供給する空調システム

コロナ禍を経て、出社することの意義、対面価値が改めて見直された結果、従業員のコミュニケーションが促されるワークプレイスの提供が企業側に求められてきています。また、働く側の価値観も変化し、労働環境がより重視されるようになった結果、オフィスの快適性を向上させることによって、より優秀な人材を確保しやすくなり、企業価値の向上にも繋がります。

4-3.災害への対応

BCP(事業継続計画:Business Continuity Planning)への対応は、収益確保に直接貢献するものではありませんが、事業の安定性と従業員の安全確保、長期的なリスク管理の観点等から投資家からの要請も強く、企業価値向上の重要なポイントとなります。
建て替えや売却が近い場合には大きなBCP投資が難しくなりますが、改修等により現在の建物を長期に使い続ける場合には、検討が推奨されます。

災害への対応に向けて、例えば以下のような改修を行います。

【災害対応に向けた改修内容】

・太陽光発電パネルや蓄電池の設置
・非常用発電機の設置
・防災備蓄倉庫の設置
・耐震・免震改修

災害への対応は省エネ対策と合わせて行うと効果的です。太陽光発電パネルなど省エネにつながる設備の導入に加え、非常用発電機等の設置により、停電時においても一定の電力を確保でき、建物機能を維持することが可能です。

まとめ

以上、企業価値向上に資する既存建築ストックの活用について解説しました。
建築基準法が改正されたことで、省エネ性能を向上する改修工事などが容易になり、以前よりも既存建築ストックが活用しやすくなりました。さらに、既存建築ストックの活用は、省エネ性能の向上などにより環境負荷の低減に寄与するとともに、ESG投資への呼び込みにつながり、企業価値向上に寄与することが期待されます。

竹内英二
不動産鑑定士・中小企業診断士
不動産鑑定事務所である株式会社グロープロフィットの代表取締役。 不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、住宅ローンアドバイザー、公認不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。土地活用と賃貸借の分野が得意。