ソリューションコラム

CRE最前線!活気づくセール&リースバック

2023/04/20
CRE最前線!活気づくセール&リースバック

1. 不動産活用の手法として、いま注目されるセール&リースバック

(1)セール&リースバックとは

セール&リースバック(以下、S&LB)とは、所有している資産(土地、建物、器具備品など)を売却し、その後、当該資産についてリース契約を締結し、資産を使用し続ける取引をいいます。

売却によって得た資金をさまざまな分野に活用することが可能となるほか、売却後も引き続き賃借して使用することができる不動産活用の手法です。対象資産も、遊休資産だけでなく、本社ビルや社宅等を含めた利用中の資産も検討対象とすることができるため、企業が保有する不動産の活用を幅広く検討することが可能となります。

(1)セール&リースバックとは

(2)メリット・デメリット

メリット

①資金の有効活用

所有資産の売却により、売却代金が手元に入ります。借り入れ等に縛られない、自由に活用できる資金となりますので、自社の成長戦略や設備投資に充てることができます。

②キャッシュフローの改善

会計上は黒字でも、手元資金が無くなると資金繰りが困難になり、企業経営が悪化するケースもあります。売却代金が手元に入ることで、キャッシュフローが安定し、最悪のケースに備えることができます。

③管理の事務・手間の削減

所有することによって生じる固有の管理事務やコストが削減できます。たとえば、固定資産税などの税金、保険料、減価償却費の計上が不要となり、管理業務が簡素化できます。

④借入枠の余剰確保

売却代金を借入金の返済に充てることが可能となります。既存の借入金を返済すると、金利負担が軽減されることもあるほか、借入枠に余剰が生まれるので、新たな借り入れや将来の借入枠を確保することができます。

⑤財務諸表への反映

譲渡益を計上するため、財務諸表へ大きなインパクトを与えることができます。

デメリット

①賃料コストの発生

毎月賃料が発生します。

②改修・建替えが制限される

所有者から賃借人となるため、改修や建替えを行う場合は、新しい所有者の意思を確認した上で実施する必要があります。

メリット・デメリット一覧

(3)コロナ禍で再注目を集めるS&LB

S&LBは特に目新しい不動産活用手法ではありません。日本では、資産効率の改善・有利子負債の圧縮・資金の捻出を目的に、2000年代頃から広く活用されてきました。その後、リーマンショック後の回復傾向に伴いS&LBが活用されるケースは減少してきました。

しかし、大きく潮目が変わったのが、2020年来から続く新型コロナウイルスの感染拡大です。新型コロナウイルスの影響による経済への打撃が大きく、銀行からの借り入れや株式市場からの資金調達が難しい状況でした。たとえ優良企業であっても自力での経営改善が求められた中、売上低迷への対応策として、自社が保有する不動産の売却を考える企業が増えてきました。

さらには、遊休資産の処分は一段落しているため、継続利用中の資産に手を付けざるを得ない状況でもありました。通常なら安値での取引となってもおかしくはありませんが、コロナ禍にあっても不動産売買市場は堅調だったため、魅力的な買い手先が見つかればS&LBが有力な選択肢となり得るのです。

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(4)最近の活用事例

最近では、上述のようなマイナス要因からの活用ばかりではありません。

急な対応で必要となったリモートワーク用システムの拡充、新規設備投資を目的とする資金調達、M&Aのための資金確保など、成長戦略への投資のためにS&LBを活用するケースが増えてきています。

ここでは、代表的な2つの活用目的と、大手企業による具体的なS&LBの活用例をご紹介します。

(4)最近の活用事例

活用目的:①オフィス効率化

新型コロナウイルス対策として導入したリモートワークが想定以上に定着し、今後のウィズコロナ・アフターコロナ時代でも継続しようと考える企業は多く見られます。リモートワークが定着した結果、現在の本社ビルに勤務する社員数は大幅に減少し、余剰スペースを抱えることになります。その場合には、経済環境の変化にフレキシブルに対応できる企業体制を目指すための資金確保を目的に、本社ビルを売却してキャッシュ化することも戦略の1つです。

活用目的:②企業経営指標の向上

企業経営の状態を判断する一般的な指標であるROA(総資産利益率)やROE(自己資本比率)などの向上に資する手法として活用されてきました。今後は、企業が事業に投下した資本からどれだけ利益を生み出しているかを表すROIC(投下資本利益率)の重要性が高まると言われています。こうした場合、研究所など直接利益を生み出さない施設への投資は難しくなってきますが、S&LBを活用して研究施設やR&Dセンターを賃借することで、財務的な課題を解決することになります。

〈具体的な活用例① オフィスビル〉

(株)電通グループは、2021年9月、東京都港区の本社ビルの売却及び賃借による継続使用を発表しました。

約890 億円を譲渡益として2021年12月期連結決算に計上する見込みです。

コロナ禍による広告収入の減少による業績悪化だけでなく、資本効率の向上・財務体質の強化・成長投資資金の確保を目的としています。

〈具体的な活用例① オフィスビル〉

〈具体的な活用例② オフィスビル〉

((株)JTBは、2021年9月、東京都品川区の本社ビルなど2 棟を売却したことが分かりました。

売却後も本社ビルとして継続利用しています。コロナ禍による旅行需要の低迷で業績が悪化しており、店舗や社員数の削減を柱とする合理化策を推進しており、本社ビル等の売却を通し、手元資金の確保による財務基盤の改善を加速させることを目的としています。

〈具体的な活用例② オフィスビル〉

〈具体的な活用例③ 工場〉

日立造船(株)は、2020年3月、大阪府堺市の工場など2 棟の売却及び賃借による継続使用を発表しました。

収益基盤を強化するために事業の選択と集中を進めており、売却益は有利子負債の返済と生産性向上に向けた投資のための資金確保を目的としています。

〈具体的な活用例③ 工場〉

〈具体的な活用例④ 物流施設〉

日本通運(株)は、2020年4月、溝ノ口物流センターなど4 棟の売却及び賃借による継続使用を発表しました。

中期経営計画において、保有資産の売却や流動化で借入金を軽減する方針を掲げており、本件もその一環にあたります。
※①~④いずれも各社リリースから引用

〈具体的な活用例④ 物流施設〉

S&LBは、本社ビルや地方拠点などのオフィスビル、物流施設、店舗はもちろん、データセンター、工場、研究施設といった特殊不動産でも活用できます。大手企業をはじめ一般事業法人でも活用事例が増えてきており、現在の企業経営を取り巻く環境に適合した資金調達の手段となっています。

2. CRE戦略支援の事例紹介

ここでは、当社にてS&LBを活用し、CRE 戦略支援をサポートした事例をご紹介します。

(1)F社のケース~事業再生を支援したS&LB~

①情報受信

本件は、2021年9月に金融機関から相談を受けたことがきっかけでした。F社は、自社にて商品の企画・製造・販売をしており、創業以降、順調に業績を伸ばしている会社です。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により需要が著しく落ち込み、業績も大きく低迷しました。複数の金融機関より劣後ローンにて資金調達するも、借入金返済の負担が大きく増え、今後の企業経営が困難な状況に陥ってしまいました。金融機関としては、F社の業績悪化はコロナ禍の影響による一時的なものであると判断し、今後の事業再生を図るための抜本的な対策の1 つとして、F社が保有する配送センターのS&LBを検討していました。このような経緯の中、当社が相談を受け、具体的な検討を始めました。

②具体的な検討

本物件は、関東近郊に位置し、敷地面積は約5,000坪、建物は延床面積が約2,000 坪で築後数年が経過したものです。業績が好調だった当時に、物流拠点の統廃合による効率性向上を図るべく購入しており、現在も自社利用しています。検討にあたっては、この先のF社にとって最適な事業にすべく、エリアのマーケット特性や事業計画について詳細に分析・検証を行いました。

A:エリアのマーケット特性の把握

本物件は、区画整理事業により一体的に開発された地区で、一般事業法人の物流拠点が数多く立地しています。高速道路インターチェンジに近接しているため物流拠点としての立地に優れるほか、都心部へのアクセスが良好であるため通勤利便性に優れています。また内陸のため津波等の心配もありません。そのため、関東近郊の物流拠点としては人気のあるエリアで、需要は高く、相場相応にて取引が可能と分析しました。建物についても、前述の通り築後数年の築浅物件であるほか、平屋建てで天井高も高いため、汎用性が高く、多層的な活用が可能な物件です。そのため、希少性が高く市場競争力は高いものと判断し、相場相応の賃料を得ることができると分析しました。

B:事業計画の検証

検証にあたっては、変動要因(賃料・利回り・事業期間など)のボラティリティを見極めながら、複数のシナリオを想定しました。各シナリオに変動要因を織り込み、且つどのシナリオとなってもF社の事業再生をサポートできるような「適正な市場価格」を判断することがポイントとなりました。「適正な市場価格」の決定に際しては、外部ヒアリングによる情報だけでなく、当社グループ内の各専門部隊から得られたマーケット情報を活用しました。外部環境の変化が速く、将来予測が難しい現在の環境において、当社グループの各専門部隊から得られた「現場感、肌感のある情報」を基に検証を進めることができました。役所調査、マーケット分析、複数シナリオによる事業計画の検証結果を踏まえ、F社の事業再生をサポートできる提案が可能であったことから、自信を持って本件を推進することができました。

【本物件のイメージ】
外観
外観
内観
内観

③条件調整

F社と当社での協議にあたっては、金融機関に両社のリレーションを上手くコーディネートしてもらいながら推進しました。また、今後発生する可能性の高い費用や管理、資産区分について事前に関係社間にて共有するなど、想定されるリスクへの対策を講じることで、事業を円滑に進めるための体制を整えました。F社とのリースバック契約については、4 年間を契約期間と設定することで、F社は、本物件売却により事業再生への原資を確保することが可能となり、この原資を以下2点に活用することにより、事業再生を目指すことで納得感を得ることができました。

A:債務返済と手元資金の確保

売却代金にて、本物件購入時に係る債務を返済(担保も抹消)し、残額は手元資金として確保

B:人員整理の原資としての売却益の確保

簿価に対して計上した売却益は、本社移転や人員整理といった経営見直しに向けた費用に充当

④まとめ

今後想定されるリスクを織り込んだ事業計画を複数検証し、F社の状況や外部環境の変化に応じて最適なシナリオを提案できたことが、本件合意に結びついたものと思料します。また、当社グループとしても、はじめてS&LBを物流施設で活用した案件となり、サービスメニューの更なる拡大と今後の提案力向上にも資する案件となりました。

(2)X 氏・Y社のケース~短期的なS&LBの活用~

他にも、短期的にS&LBを活用した事例をご紹介します。

X氏のケースでは、日常居住している居宅を当社グループが購入し、X氏の引越・移転に必要な1年間にて短期的にS&LBを活用しました。その後の転居先探索でも、当社グループにて物件を紹介し、サポートしました。Y社のケースでは、事業用として自社利用していた工場の移転を円滑に進めるため、短期的なS&LBを活用しました。Y社は、急な資金調達が必要となり、工場を早急に売却しなければならない状況に陥ってしまいました。短期間での移転先候補の選定は不可能であるため、廃業も覚悟しなければならない事態でしたが、当社グループにて2年間のリースバックを条件とした売却を提案しました。

これにより、十分な時間をかけて移転先を探索することができました。さらには、契約締結前に土壌汚染調査を実施したことで、売却時における想定外の追加費用発生も心配することなくサポートできました。いずれのケースにおいても、「早急な資金化が必要になったが、移転に時間を要する」という点が共通しており、移転先検討時間を確保するために短期的にS&LBを活用しています。

3. まとめ

CRE戦略は、各業界を取り巻く国内外の経済環境、企業の財務内容や経営方針などを総合的に勘案し、不動産個別の課題を解決するとともに、企業経営における全体最適の観点から“企業価値”向上に資する施策を検討する必要があります。各企業は、現在のコロナ禍や今後のアフターコロナの時代に向けて、大きな経営判断を迫られる場面があるかもしれません。

当社グループによる“CRE戦略支援”では一時的・一過性の視点にとらわれず、さまざまな事象を検証し、付加価値を創造していくことでお客様の企業価値向上に貢献します。

(レポート:笠原 創)

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