会計トピックス
会計不正・後発事象・のれん会計の最新動向—ガバナンスと開示実務への含意
※本ソリューションコラムは、「CRE SOLUTION Report Vol.36(2026年1月号)」会計トピックスを転載しています。
本号の会計トピックスでは、日本公認会計士協会(jicpa)が公表した経営研究調査会研究資料第12号「上場会社等における会計不正の動向(2025年版)」、企業会計基準委員会(ASBJ)の後発事象に関する会計基準(案)、そしてのれんの非償却および償却費の計上区分を巡る公聴会での議論を整理し、今後のガバナンス・開示・M&A実務への影響を考察する。
上場会社等における会計不正の動向(2025年版)
(1)要点整理
▼2024年度に会計不正の事実を公表した会社は56社
▼発覚経路については、過去5年間184件のうち「当局の調査等」で発覚したのは47件で最多となる。公認会計士監査による発見は16件(8.7%)にとどまる
▼不正の主体は、役員・管理職による外部・内部共謀型が中心。内部統制の無効化が行われているケースが多い
▼海外子会社で発生する会計不正は、地域別でみると中国が約46%と最多
▼2025年上半期の「不適切会計」開示は 28社・29件。半期ベースでは3年連続減少だが、内容は複雑化
▼AI関連企業の株式会社オルツ(260A)では、21年12月期〜24年12月期の売上の約9割が架空計上と第三者委員会報告書で認定されており、監査・上場審査の在り方も問われている((5)で詳述する。)
(2)会計不正公表社数と発覚経路
jicpaの経営研究調査会研究資料第12号「上場会社等における会計不正の動向(2025年版)」によれば、2024年度(2024年4月〜2025年3月)に会計不正の事実を公表した会社は56社であり、ここ数年、増加傾向が続いている。関係会社・海外子会社を含む事案も多く、不正の構図は複雑化している。
同資料では、過去5年間184件の会計不正について発覚経路を分類しているが、「当局の調査等」47件がトップであり、公認会計士監査による発見は16件(8.7%)に過ぎない。監査は重要なゲートキーパーであるものの、経営者関与の不正については、当局の調査や内部通報が決定的な役割を果たしている実態がうかがえる。
(3)不正の主体と共謀の構造
会計不正の主体的関与者としては、役員や管理職が中心であり、社内・社外の共謀により内部統制を無効化した上で不正が実行されている事例が多いと分析されている。内部統制が形式的にしか機能していない場合、現場レベルの統制や監査手続だけでは不正の兆候を捕捉しにくくなる。
さらに、海外子会社における会計不正の地域別集計では、中国が約46%を占めるとされている。現地の商慣習、統制環境、監査証拠の入手難など、構造的にリスクが高いことが浮き彫りになっており、日本本社や監査人による継続的なモニタリングが不可欠である。
(4)2025年上半期の「不適切会計」動向
東京商工リサーチ「上場企業の『不適切会計』開示は28社・29件 上半期は3年連続で減少」によると、2025年上半期(1〜6月)に不適切会計を開示した企業は28社・29件で、上半期ベースでは3年連続の減少となった。 一方で、年度ベース(4〜3月)では不適切会計の開示企業数は4年連続で増加しており、単純な減少傾向とは言い切れない。
内容別では、以下のように整理されている。件数だけを見ると「誤り」が過半を占めるが、粉飾や横領といった不正も依然として発生している。
○経理・会計処理ミス等の「誤り」16件(55.2%)
○子会社・関係会社の役員・従業員による「着服横領」9件(31.0%)
○架空売上などの「粉飾」4件(13.8%)
特に近年は、単純な会計処理ミスにとどまらず、関連会社・海外子会社を巻き込んだ多段階の取引構造、複数年度にまたがる影響、不正と誤りが併存する混合型のケースが散見されており、内容が高度化・複雑化している点が特徴といえる。オルツ事案のように循環取引を介した資金移動や文書改ざんが組み合わさるケースもあり、従来の分類枠だけでは把握が難しい事案が増えていることがうかがえる。
(5)代表的事例:オルツの循環取引
2025年上半期に大きな注目を集めた事例が、オルツの循環取引による売上高過大計上である。会社公表の第三者委員会報告書によれば、2021年12月期から2024年12月期までの売上高の約9割が架空計上であったと認定されている。
同報告書では、広告代理店や販売委託先を利用した資金循環スキームの詳細に加え、監査法人、主幹事証券会社、JPXの上場審査に対して事実と異なる説明や改ざん資料を提供していたことが指摘されている。報告書P83では、これらの行為を「監査制度や上場審査制度の根幹を揺るがしかねない強い非難に値する行為」とまで表現しており、極めて厳しいトーンである。
(6)実務への示唆
jicpa資料および東京商工リサーチの調査結果、オルツ事案を総合すると、次のポイントが実務上の論点として浮かび上がる。
○経営陣が関与する共謀型不正に対して、形式的な統制や手続だけでは不十分であり、「違和感」の深掘りが不可欠であること
○海外子会社・スタートアップ領域など、ビジネスモデルの実態把握が難しい領域ほど、不正リスクが高いこと
○監査人は、監査基準報告書(監基報)240に沿った職業的懐疑心の発揮を一層求められており、不正を前提としたリスク評価と手続設計が重要であること
会計不正の件数や類型だけでなく、個別事例が突きつけているメッセージを踏まえ、企業側・監査側双方でガバナンスと監査品質の強化が求められている。
後発事象に関する会計基準(案)等の公表
(1)要点整理
▼ASBJは2025年7月8日、企業会計基準公開草案第87号「後発事象に関する会計基準(案)」等を公表
▼jicpaの監基報560実務指針第1号「後発事象に関する監査上の取扱い」のうち、会計に関する部分を会計基準としてASBJ側に移管する位置付け
▼後発事象の基準日を 「財務諸表の公表の承認日」に変更し、IFRS(IAS 10)と整合
▼財務諸表には、承認日・承認機関・承認責任者の注記が求められる
▼会計監査人設置会社の計算書類等における後発事象の対象期間も、適用指針案で明確化
▼監基報560実1に掲載されていた開示例については、補足文書として例示を提供する方針
(2)公開草案の背景と狙い
ASBJおよびjicpaは、jicpaが公表してきた実務指針等のうち、会計領域の内容をASBJの会計基準に移管するプロジェクトを進めている。意見募集文書に対するコメントを踏まえ、継続企業と後発事象については、会計と監査を切り分けて整理すべきとの方向性が示されていた(企業会計基準公開草案第87号冒頭参照)。
今回の後発事象に関する会計基準(案)は、「我が国の会計基準の全体像を把握しにくい」という課題に対応し、会計基準体系の完全性を高めることを目的としている。
(3)後発事象の基準日の統一
従来、後発事象の基準日については、会社法に基づく計算書類、有価証券報告書、四半期報告書など、それぞれの制度ごとに異なる理解が混在していた。
公開草案第87号では、後発事象の基準日を「財務諸表の公表の承認日」と定義し、判断基準日を統一した。これはIAS 10「後発事象」の考え方と整合しており、国際的なコンセプトとの一体性を高めるものである。
(4)注記の新設:承認プロセスの透明化
公開草案では、財務諸表に以下の情報を注記することが求められている。
○財務諸表の承認日
○承認を行った機関(取締役会、代表取締役等)
○承認を行った責任者の名称
ASBJが公表した解説文およびIFRS適用会社の例(じげんの有価証券報告書等)では、既に同様の注記が行われており、今回の基準案はこれを日本基準の企業にも広げる趣旨と整理されている。承認プロセスを明文化・開示することで、後発事象の対象期間やガバナンスの実態が投資家にも分かりやすくなる。
(5)会計監査人設置会社の取扱いと補足文書
公開草案第88号および適用指針公開草案第87号では、会計監査人設置会社における
○計算書類(会社法)
○財務諸表(金融商品取引法)
それぞれの後発事象の対象期間を明確化している。これにより、「どの書類について、いつまでの事象を後発事象として扱うか」という実務上の疑問が整理される。
一方、監基報560実1には、開示後発事象の具体例や注記の文章例が示されていた。これらは実務で広く利用されてきたことから、ASBJは補足文書「開示後発事象の例示及び開示内容の例示について」を公表する予定とし、移管後も例示を参照できるよう配慮している。
(6)実務への影響
今回の公開草案は、後発事象の会計処理自体を大きく変更するものではなく、
○基準日の統一による判断枠組みの明確化
○承認プロセスの注記による透明性向上
○制度横断的な整理による混乱防止
といった「体系整理色の強い改正」と位置付けられる。
もっとも、承認日や承認機関を注記するためには、財務諸表作成プロセスや社内決裁の記録をこれまで以上に整備しておく必要がある。今後の最終基準公表に向けて、各社は自社の承認プロセスと開示体制を点検しておくことが求められる。
のれんに関する公聴会の議論の方向性(第1回〜第6回の資料に基づく整理)
(1)要点整理
▼ASBJは2025年8〜11月にかけて、「のれんの非償却の導入及びのれん償却費計上区分の変更」に関する公聴会(全6回)を開催
▼テーマは大きく分けると以下の2点となる
◦のれんの非償却(減損のみ)モデルへの移行
◦のれん償却費(又は減損損失)の計上区分(営業利益 vs 営業外)
▼VC・PE・スタートアップ企業・研究者・実務家など、幅広い利害関係者が意見表明
▼多くの意見者が、IFRSとの整合性やスタートアップ投資環境の観点から非償却化を支持
▼一方で、減損認識の遅れや保守性低下への懸念、減損テストの負荷を指摘する慎重意見も少なくない
▼のれん償却費を営業利益に含めるかどうかについては、実務への影響が大きく、公聴会でも意見が分かれた
(2)公聴会で特に論点となった4つのポイント
(3)非償却化を支持する意見
第2〜4回の資料を通じて、多くの意見者がのれんの非償却化(減損のみ)に賛成している。
○IFRSではのれんは非償却であり、日本だけが償却を継続すると国際的な比較可能性が損なわれる(第1回野間資料、第4回加藤・東川資料)
○スタートアップ企業やVC・PEからは、のれん償却が投資回収期間を実態以上に短く見せ、成長投資を阻害しているとの指摘(第2回 SmartHR・ソラコム資料、日本VC協会/PE協会資料)
○宮宇地氏(第3回)は、のれんを「将来の超過利益の期待値」と捉えるならば、一定期間で定額償却するよりも、価値が毀損した時点で減損処理する方が、経済的合理性が高いと論じる
これらの議論を踏まえると、公聴会の多数意見としては、非償却モデルの導入を前提に検討を進めるべきという方向性が読み取れる。
(4)慎重意見:減損遅延と保守性の低下
他方で、全ての意見が非償却化に賛成というわけではない。第1回〜第6回の議事概要や資料には、次のような懸念も繰り返し示されている。
○減損認識には経営者の裁量が介在するため、損失認識が遅れるおそれがある(第1回 野間資料)
○特に買収後のシナジーが不明確な場合、減損テストの前提となる将来キャッシュ・フローの見積りの不確実性が大きく、財務報告の保守性が低下する懸念がある(第4回 阿部資料等)
○非償却化を採用する場合でも、減損テストの簡素化やスクリーニングの仕組みがなければ、実務負荷が過大になる(複数資料)
ASBJとしても、非償却化を前提としつつ、減損テストの簡素化・負荷軽減策を併せて検討する必要があることが示されている。
(5)のれん償却費の計上区分
今回の公聴会で特徴的だった論点が、のれん償却費(または減損損失)を営業利益に含めるかどうかである。
○営業利益に含めるべきとする意見(第4回 加藤・東川資料等)は、M&Aを事業戦略の一環と捉え、のれん関連費用も営業活動の成果として把握すべきと主張する
○一方、営業外とすべきとする意見(第5回 永沢資料、第6回 渡辺資料等)は、のれん償却や減損は買収時点の投資の評価・回収に関するものであり、通常の営業活動の成果とは性格が異なると指摘する。また、営業利益に含めるとボラティリティが高まり、業績評価指標としての安定性が損なわれる懸念も示されている
公聴会でも意見が割れており、ASBJ事務局の資料でも「計上区分については、投資家の利用実態や他の指標との関係を踏まえ、さらに検討を要する」と整理されている。
(6)ASBJ事務局による整理と今後の方向性
第6回の事務局資料では、公聴会での意見を踏まえ、概ね次のような方向性が示されている。
○非償却モデルの導入を中心に検討を進める(公聴会の多数意見を踏まえたもの)
○減損テストについては、一定の簡素化やスクリーニングの導入などにより負荷軽減を図ることが前提
○償却費(または減損損失)の計上区分は、営業利益の位置付けや投資家の分析実務を踏まえ、追加的な調査・議論が必要
のれん会計は、日本基準の中でも企業価値評価やM&A戦略、スタートアップ投資環境に直結する領域であり、今回の公聴会はその転換点に位置づけられる。今後のASBJの審議内容は、多くの上場企業・投資家・監査人にとって大きな影響を持つと考えられる。
筆者紹介
吉田 武史(よしだ たけし)
公認会計士 監査法人アヴァンティア パートナー
2005年、公認会計士試験第2次試験合格。2006年、慶應義塾大学経済学部卒業。上場企業(IFRS適用会社を含む。)等の監査業務のほか、品質管理業務に従事。TAC修了考査対策講座講師(監査実務・関連法規及び職業倫理)。日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 会計基準等監査対応WG 専門委員。原子力規制委員会 外部有識者
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