ソリューションコラム

CRE最前線!SDGsに対する企業の取り組みとCRE戦略

2023/04/20
CRE最前線!SDGsに対する企業の取り組みとCRE戦略

1. 企業のSDGsに対する意識変化

(1)SDGsとは

SDGsとは「Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標」の略語であり、持続可能でより良い社会の実現を目指す、世界共通の目標をいいます。2015年9月の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で掲げられ、具体的には17のゴール(図1参照)と169のターゲットから構成されます。

SDGsは政府や自治体を中心に展開されていましたが、近年は民間企業においても積極的に関与する機運が高まっています。SDGsへの取り組みは、以前からのCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)やCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)といった企業活動の進化形でもあるからです。SDGsの目標達成への貢献によって、新たなビジネスチャンスへの繋がり・社会的イメージの向上・新たな人材獲得など様々な効果が期待されています。さらには、新型コロナウイルスにともなう社会・経済活動の新しい生活様式における企業の持続可能性に対する考え方としても有効と考えられています。

(1)SDGsとは

(2)企業の意識

2020 年7月に公表された帝国データバンク「SDGsに関する企業の意識調査」では、全国11,275 社のうち、自社におけるSDGsへの理解や取り組みについて、積極的な企業は24.4%となっています(「意味および重要性を理解し、取り組んでいる」「意味もしくは重要性を理解し、取り組みたいと思っている」と回答した企業の合計)。一方で、SDGsの存在は認知しているものの、実際には取り組めていない企業が47.7%と約半数近くとなっています(「言葉は知っていて意味もしくは重要性を理解できるが、取り組んでいない」「言葉は知っているが意味もしくは重要性を理解できない」と回答した企業の合計、図2参照)。

SDGsに積極的な企業を規模別で見ると、企業規模が大きいほど積極的に取り組む傾向が高くなっています。また、業界別に見ると、「金融」が41.5%と高く、その他業界は20%台となっています(図3参照)。関東経済産業局でも2018 年に同様のアンケート調査を行っていますが、これによると「SDGsについて全く知らない」と回答した中小企業は84.2%にもおよび、中小企業での認知度は15.8%にとどまりました。

SDGsが中小企業に浸透していない理由として考えられるのは、グローバルな視点での経営ビジョンを掲げる中小企業が少ないため、自社に関連することとして捉えにくいという点が挙げられます。また、収益に直結しないことに経営資源を割けないという、資金やマンパワーの面での課題もあります。更には、最近では中小企業にも働き方改革が求められ、労働時間を少なくする必要にも迫られています。人手不足で、且つ労働時間を減らすという状況で、新たに従業員へ負担をかけて、SDGsへの取り組みを行う時間を割くというのが難しいという企業も少なくないでしょう。

ただ、これからは中小企業を含めたサプライチェーン全体に、SDGsの取り組みが求められる時代になります。中小企業の経営者がまずはSDGsを理解し、社会的に今後も求められることであり、企業が持続していくために必要であることを従業員に浸透させていくことが大切です。

図2 SDGsへの取り組みと理解 図3 SDGsに積極的な企業の割合

(3)SDGsに取り組むメリット・デメリット

企業がSDGsに取り組むメリットとデメリットを整理してみます(表1参照)。

ここでは、省エネや省資源の点については記載していませんが、大きなメリットとしては、長期的な視点による将来的な企業価値・売上増加に寄与することが挙げられます。

一方、デメリットとしては、社員への負担増加が大きな課題となっています。多くの企業において、SDGsに取り組むにあたっては、日々の業務に加えて新たな業務が発生します。SDGsへの取り組みで企業価値を高めようとするには、そのためのミーティングや業務に時間を割く必要があります。

表1 企業がSDGsに取り組むメリット・デメリット

(4)主な企業の取り組み事例

最後に、直近における大手企業の取り組み事例をご紹介します。いずれも自社主力事業に直結する分野での取り組みになっており、自社ホームページに掲載されています(表2参照)。

既に国内でも多くの企業がSDGsに取り組んでいますが、自社の売上・利益を追求し、持続可能な会社経営を追求するのみならず社会全体の課題、とりわけ社会の持続可能性に貢献しようという動きは、企業規模を問わず今後ますます求められるようになるでしょう。

(4)主な企業の取り組み事例

2. CRE戦略支援の事例紹介 ~SDGsを踏まえた有効活用の実践~

ここでは、当社グループにて新築工事請負業務、設計監理業務、プロジェクトマネジメント業務を受託し、ワンストップソリューションとしてCRE戦略支援をさせて頂いた事例をご紹介致します。

(1)情報受信から案件化に至るまで

インキメーカーA社さまとは、銀行との帯同訪問を契機に2015年頃から深耕を開始しました。本件のご相談を受けたのは、ちょうどその頃でした。

本件は、埼玉新都市交通「今羽」駅から徒歩圏の立地条件において、長期に亘り遊休化していた敷地面積約600 坪の社宅跡地の有効活用提案です。当初は、当社グループを含めハウスメーカーを中心とした約10社にご相談をされていました。しかし、高齢者向け施設としての活用案が大多数で、コスト面等において社内でも慎重な姿勢が続き、有効活用の機運は一度低くなってしまいました。その後も地道な営業深耕を積み重ね、改めて2019年に有効活用提案を行い、本件プロジェクトがスタートしました。

(2)戸建て賃貸住宅の提案に至るまで

当社グループは、以下4点から検討を重ねた結果、「木造:戸建て賃貸住宅」を提案致しました。

①交通網の変化

2015年にJR 東日本の「上野東京ライン」が開通したことで、東京⇔大宮間の移動時間が大幅に短縮されました。この影響により、都心部へのアクセスが大きく向上し、都心に勤務するサラリーマンやマイホームを求める若いファミリー世帯が大宮エリアに流入していました。

②住宅ニーズの高まり

本物件が立地するエリアは、区画の大きな一戸建てが多く建ち並ぶ、閑静な住宅街です。周辺には、生活利便施設や大きな公園が整備されているため、子育て世帯にはとても住みやすい住環境となっています。賃料水準も、都心部と比較して安いため、同じ賃料でも広い住宅に住むことができます。加えて、上述の「上野東京ライン」の開通により、住みやすさが一段と向上しました。

これらが要因となり、「大宮」は大手住宅情報サイトによる「住みたい街ランキング」の上位にランクインするなど、近隣エリアも含め、住宅ニーズは大きく高まっていました。

③コスト

従来の提案では、容積率200%を最大限消化した共同住宅や高齢者向け施設が大半だったため、それに応じて建築コストも高額でした。ところが、戸建て住宅は、容積率を殆ど消化しないため、建築費の総額は膨れ上がりません。

また、鉄骨や鉄筋コンクリートと比較すると、木材の材料費単価は約30%低い水準にあります。これにより、建築コストを大きく圧縮することができます。

④企業理念(SDGsへの取り組み)との合致

A社さまは、『暮らしを彩る、暮らしに役立つものづくりで、社会に貢献する』という企業理念のもと、製品製造を通じて、持続可能な開発目標であるSDGsの達成に貢献することを掲げています。具体的には、生産・技術部門は「ISO14001認証」の取得、営業・間接部門は、ISO14001を簡素化したTEMS 活動に取り組むなど、全社的な環境マネジメントシステムを構築し、省資・省エネ・廃棄物削減等のテーマに取り組んでいます。他にも、化学物質の適正管理の観点から、環境に負荷をかける有害物質等のリスク管理を適正に実施しているなど、多くの取り組みを行っています。

一方で、A社さまで展開している不動産事業については、サスティナビリティに関する取り組みが無いことが経営課題の1つでもありました。当社グループが提案する「木造:戸建て賃貸住宅」は、木材を使用することによる環境負荷の低減や地域に配慮した街づくりの面において経営課題をクリアすることができます。このような企業理念とニーズが合致し、A社さまの不動産事業とSDGsを紐付けることができました。

(3)当社グループだから提案できたこと

木造建築について、当社グループではテラスハウス、高齢者向け施設、保育所など複数用途での施工実績がありました。また、有効活用のプロジェクトを推進する業務(プロジェクトマネジメント業務、以下PJM業務)については、長年に亘ってCRE 戦略支援を行ってきた実績と培ったノウハウを持っており、お客様からも厚い信頼を頂いています。

そのため、当社グループとしては、PJM業務・設計監理業務・新築工事の請負業務の一括受託を目指し、「業務に対する柔軟な組織対応力」をアピールしました。設計業務と請負業務を一括受注することで、A社さまの要望を可能な限り設計に反映させることが出来ました。また、PJM業務を受託することで、お客様にとって煩わしいプロジェクト業務の進捗管理を代行し、負担軽減と安心感を与えることができた提案となりました。

その結果、設計監理業務と新築工事の請負業務を日土地建設(株)(当時、現中央日土地ファシリティーズ)が、本件に関するプロジェクトマネジメント業務をCREコンサルティング部(当時、現中央日土地ソリューションズ アドバイザリー部)にて受託させていただくことになりました。

(4)特徴的な設計・仕様

本件は、ディズニー絵本「小さな家」から着想を得た「どこか懐かしいライフスタイルが満ち溢れたコミュニティーの創造」をコンセプトに計画を進めました。間取りはAタイプ:69.56㎡(約21坪)×8戸、Bタイプ:66.24㎡(約20坪)×6戸の全14戸で、全て木造(ツーバイフォー・枠組壁工法)2階建てです。全住戸には大きな庭を備え、駐車場スペースも広く、室内で楽器演奏や大型犬等ペットを飼うことも出来ます。

建物性能においても、SDGsにつながる住宅性能評価4項目で最高等級の性能を確保しています(長期優良住宅と同等性能、表3参照)。また、コロナ禍において改めて「働き方」が見直される中で、リモートワークにも対応できる書斎部屋を全住戸に完備しています。

(4)特徴的な設計・仕様
外観
外観
内装
内装

(5)新型コロナウイルスの影響 ~竣工を迎えるまで~

工事が着工してから1ヶ月後の2020 年3月後半以降、新型コロナウイルスの感染拡大が進みました。大手施工会社の建設現場では、海外からの建築資材や設備の供給ルートが寸断されたことにより、設計プランや工事スケジュールを再検討するケースが多く見られました。さらには、工事が中断となった現場も見られました。このような状況下でも、本プロジェクトは当初の施工スケジュールから遅れることなく業務を推進することが出来ました。

このような対応ができたのは、工事が中断してしまった他現場で働く職人の方々を巻き込むことで、適正な人工以上の人材を確保することができたためだと推察されます。その上で、感染対策を充分に講じ、安全面を最大限に配慮しながら工事を継続することができました。本件は2020 年8月末に竣工を迎えました。竣工と同時に、多くのお客様からご入居の問い合わせをいただき、今では、満室稼働となっています。

3. まとめ

CRE 戦略では、各業界を取り巻く国内外の経済環境、企業の財務内容や経営方針などを総合的に勘案し、不動産個別の課題を解決するとともに、企業経営においても全体最適の観点から、“企業価値”が向上する戦略を検討する必要があります。

各企業は、現在のコロナ禍や今後のwithコロナの時代に向けて、大きな経営判断を迫られる場面があるかと思います。当社グループによる“CRE 戦略支援”では一時的・一過性の視点にとらわれず、さまざまな事象を検証し、全体最適となり得る施策をお客様と協働し、付加価値を創造してまいります。

(レポート:笠原 創)

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