ソリューションコラム

会計トピックス
補助金・VCファンド・期中財務諸表をめぐる制度改正の動き
公認会計士 監査法人アヴァンティア パートナー 吉田 武史 ※本ソリューションコラムは、「CRE SOLUTION Report Vol.35(2025年8月号)」会計トピックスを転載しています。

2025/12/19
補助金・VCファンド・期中財務諸表をめぐる制度改正の動き:イメージ

企業の会計実務をめぐる議論が活発化している。日本公認会計士協会は、補助金等に関する収益認識や開示の在り方を整理した研究報告の公開草案を公表した。一方、企業会計基準委員会は、ベンチャーキャピタルファンド出資持分の時価評価に関する会計処理の見直しを実施し、さらに期中財務諸表に関する新たな会計基準案を提示するなど、現行制度の再構築に向けた動きが続いている。実務への影響に注目が集まる。

日本公認会計士協会(jicpa)会計制度委員会研究報告「補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告」(公開草案)を公表

現在、我が国には補助金等に関する明確な会計基準は存在しておらず、実務では様々な処理が行われている。このような背景を受けてjicpaは、補助金等に係る会計処理および開示について、実務上の課題を整理し、特に収益認識の時期、総額表示・純額表示、表示区分の3点に焦点を当てた検討を行い、その結果を研究報告として公表した。

まず、補助金等の収益認識の時期については、実務上、補助金の交付目的や付帯条件の内容により処理が分かれている。たとえば、雇用調整助成金や研究開発助成金などでは、交付決定通知の受領時、または企業が必要な手続を済ませた時点で収益を認識するケースがある。一方、付帯条件が長期間にわたり継続的に存在する場合(例:企業化状況の報告が必要な助成金など)には、報告義務を果たした時点で段階的に収益を認識する方法も考えられる。

また、企業が補助金の支給額を合理的に見積ることが可能であり、かつその収受が確実であると判断される場合には、支給申請の段階で収益認識を行うことも可能とされており、企業の状況や補助金の性格に応じた柔軟な会計処理が求められている。

次に、補助金の表示については、損益計算書においては「営業外収益」に計上することが原則とされている。補助金等は通常、顧客との契約による交換取引ではなく、反対給付を伴わない一方的な給付であるため、営業収益として計上することは適当でないとされる。また、費用との相殺による純額表示を行うことも一定の場合には認められるが、その場合には注記による補足情報の開示が必要となる。

さらに、キャッシュ・フロー計算書における補助金等の表示については、営業活動によるキャッシュ・フローまたは投資活動によるキャッシュ・フローのいずれに分類するかが問題となる。たとえば、資産取得に充てられる補助金であれば投資活動に該当し、それ以外の補助金は営業活動に含めることが一般的である。ただし、取引の性質や企業の事業目的に応じて表示区分が判断されるべきとされている。

また、損益計算書やキャッシュ・フロー計算書における補助金の総額表示と純額表示についても議論されている。現行の実務では、補助金とそれに対応する費用または圧縮損を相殺して純額で表示することも認められているが、原則は総額表示であり、相殺する場合には注記にて相殺の事実および金額を明示することが推奨されている。この点については、IFRS(International Financial Reporting Standards:国際財務報告基準)においても補助金の資産取得原価からの控除は他の基準との整合性に欠けるとして原則避けるべきとされており、我が国においても慎重な検討が必要である。

加えて、資産に関する補助金については、いわゆる圧縮記帳の採用も実務上見られる。税務上の圧縮記帳制度の存在により、補助金受領額を固定資産の取得原価から控除する方法や、圧縮損として損益計算書に計上する方法など、複数の処理方法が存在するが、これも比較可能性の確保の観点から開示の充実が求められている。

本研究報告では、これらの会計処理が企業間で大きく異なることにより、利用者にとっての財務情報の比較可能性が損なわれるという課題を指摘している。そして、補助金の認識規準や表示区分、開示方針などを重要な会計方針として明確に開示することによって、一定程度の解決が可能であると提言している。

国際的には、IAS(International Accounting Standards:国際会計基準)第20号「政府補助金の会計処理及び政府援助の開示」などの基準が存在しており、我が国の実務もこれらとの整合性を意識して進化していくことが求められる。さらに、IASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)やFASB(Financial Accounting Standards Board:財務会計基準審議会)においても補助金に関する基準見直しの議論が進められており、今後の動向にも留意が必要である。

本研究報告は、現時点では拘束力を持つ会計基準ではないものの、企業の実務対応にとっての指針として重要な意味を有する。企業が補助金を受け入れる際に、その性格や条件に応じてどのように収益を認識し、どのように開示を行うかについて、一貫性と透明性を確保するための枠組みを提供するものである。今後、意見募集を経て報告内容がさらに精緻化されることが期待されている。

企業会計基準委員会(ASBJ) 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」を公表 —上場企業等が保有するベンチャーキャピタルファンドの出資持分に係る会計上の取扱いについて

2025年3月11日に改正された移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」では、上場企業等が保有するベンチャーキャピタルファンド(以下「VCファンド」という。)の出資持分に係る会計上の取扱いの見直しが行われた。従来、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」に基づき、市場価格のない株式は取得原価で評価し、貸借対照表価額とすることが原則とされていた。しかしながら、近年、非上場株式を主要な構成資産とするファンド型金融商品の活用が増加しており、それらの保有価額を取得原価のままに据え置くことは、財務諸表の透明性や投資家への有用な情報提供という観点から課題が指摘されていた。

とりわけ、VCファンドが保有する非上場株式は、将来の成長可能性を内包しており、実際の価値が取得原価と乖離しているケースも多い。このため、これらを時価で評価することにより、企業の財務内容をより正確に反映することが可能となるとの意見が強く、制度改正の要望が高まっていた。加えて、ベンチャー投資に関心を持つ国内外の機関投資家に対して、より的確な情報提供を行うことができる点から、成長資金の供給を促進する観点でも本改正は意義深いものである。

今回の改正では、すべての組合等を一律に時価評価の対象とするのではなく、VCファンドに相当する組合等のうち、一定の要件を満たす場合に限定して、構成資産である市場価格のない株式を時価評価することができるとされた。具体的には、①組合等の運営者が出資財産の運用を業としていること、②組合等の決算において構成資産である非上場株式が時価評価されていることの二点が要件とされる。これにより、時価の信頼性を確保しつつ、評価者の能力や体制の妥当性にも配慮した実務運用が可能となる。

ここでいう「組合等の運営者」とは、たとえば投資事業有限責任組合における無限責任組合員が該当し、その他の法形態であっても同様の業務執行責任を負う者が該当する。また、評価基準については、日本基準のみならず、IFRS第13号「公正価値測定」や米国FASBのTopic 820「Fair Value Measurement」等、国際的に整備された会計基準に基づく評価も認められる。

評価の結果生じた差額については、損益ではなく純資産の部、すなわちその他の包括利益に計上されることとされている。これは、他の有価証券と整合的な処理とすることにより、制度全体としての一貫性を保つためである。また、評価対象からは、出資者である企業の子会社株式および関連会社株式は除外される。これらは企業会計基準第10号第17項により、取得原価主義が維持されているためである。

適用にあたっては、企業はあらかじめ組合等への出資時に、本時価評価を適用するかどうかを判断し、選択した場合は出資後にその方針を変更できない。ファンド・オブ・ファンズのように間接的な出資形態をとる場合には、再投資先の組合等が上記要件を満たしているかを個別に判定する必要がある。加えて、開示においては、適用している旨や対象組合の評価額など、関係する注記情報の提供が求められる。

適用開始は2026年4月1日以後開始する会計年度からとされているが、早期適用も2025年4月1日以後から可能とされている。また、初年度については評価差額や減損損失の会計処理について経過措置が設けられており、取得原価からの差額はその他の包括利益または利益剰余金に反映させる処理が定められている。

以上のように、本改正はVCファンドの出資持分に対する財務報告の精緻化と投資家への情報提供の高度化を目的としたものであり、資本市場の健全な発展にも資する内容となっている。企業にとっては新たな判断と対応が求められるものの、透明性と信頼性を両立した財務報告の実現に向けた重要な一歩といえる。

ASBJ 企業会計基準公開草案第83号 「期中財務諸表に関する会計基準(案)」等を公表

2025年4月にASBJから公表された企業会計基準公開草案第83号および適用指針公開草案第85号「期中財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」は、企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」および第33号「中間財務諸表に関する会計基準」などを統合し、任意に作成される期中財務諸表に対して横断的な枠組みを提供することを目的としている。

本公開草案では、「期中財務諸表」を、年度より短い期間に係る連結財務諸表および個別財務諸表と定義し、その会計処理および開示に関する原則を体系化している。従来の四半期開示制度の見直しにより、金融商品取引法上の第1・第3四半期報告書が廃止される一方、取引所規則に基づき開示される決算短信や任意の期中報告が今後も継続されることを前提に、任意の期中開示にも信頼性のある指針が必要とされた。

会計処理に関する基本的な原則としては、年度の財務諸表に用いられる会計方針と整合的であることが求められており、期中特有の会計処理を除き、年度ベースの会計方針に準拠すべきとされる。ただし、利用者の判断を誤らせない範囲において、簡便的な会計処理も容認されている。具体的には、標準原価計算を用いる企業では原価差異の一時繰延処理が、また税金費用については年間見積実効税率を用いた税額の見積り計算が認められている。

また、会計方針の変更があった場合には、原則として過年度に遡って適用することが求められ、実務上不可能な場合にはその理由等を注記する必要がある。さらに、企業結合に係る暫定的な処理の確定や過去の誤謬の訂正についても、既存の会計基準に準拠した処理が求められている。

開示に関しては、財務諸表の利用者にとって重要な情報を適切に提供する観点から、期中財務諸表においても注記事項が幅広く定められている。会計方針の変更、重要な見積りの変更、収益の分解情報、セグメント情報、1株当たり利益、企業結合・事業分離・後発事象など、多岐にわたる注記が求められており、注記事項は基本的に年度の財務諸表の開示と整合性を保つ必要がある。また、キャッシュ・フロー計算書については、6か月ごとより高頻度で作成される期中財務諸表では省略が認められている場合もある。

適用指針では、期中会計処理における具体的な取扱いが示されている。債権の貸倒引当金は、前年の実績率を基に合理的に見積ることが可能であり、有価証券や棚卸資産の評価についても洗替え法・切放し法の選択や簡便的な処理が示されている。固定資産については、定率法に基づく減価償却費の期間按分や、年度予算に基づく処理が容認されているほか、退職給付費用や役員賞与についても合理的な見積りが困難な場合には期中費用処理を行わない選択肢が提示されている。

税金費用についても柔軟な対応が認められており、重要性が乏しい子会社では、前年度の税率を適用する簡便法も選択可能とされている。これにより、特に上場企業グループにおける連結財務諸表作成の実務的な負担の軽減が図られることが期待される。

これらの改正は、従来の四半期制度が法的に変更されることに伴う制度的空白を埋め、今後も企業が任意に期中財務情報を開示するにあたり、信頼性ある共通の枠組みを確保するという観点から重要である。企業にとっては、柔軟性を維持しつつ、投資家等の利用者にとって有用な情報を適切に提供することが求められる。

なお、本会計基準の適用開始は、公表後最初に到来する年の4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の最初の期中会計期間からとされており、同時に現行の第12号および第33号などは廃止されることになる。経過措置としては、初年度の適用において遡及適用が求められない等の柔軟な取扱いが設けられている。

筆者紹介

吉田 武史(よしだ たけし)
公認会計士 監査法人アヴァンティア パートナー

2005年、公認会計士試験第2次試験合格。2006年、慶應義塾大学経済学部卒業。上場企業(IFRS適用会社を含む。)等の監査業務のほか、品質管理業務に従事。TAC修了考査対策講座講師(監査実務・関連法規及び職業倫理)。日本公認会計士協会 中小事務所等施策調査会 会計専門委員会 会計基準等監査対応WG 専門委員。原子力規制委員会 外部有識者