不動産関連会計解説
~不動産に係る最近の会計・税務~
※本ソリューションコラムは、「CRE SOLUTION Report Vol.35(2025年8月号)」不動産関連会計解説を転載しています。
Ⅰ はじめに
不動産に関連した最近の会計および税務のトピックスを取り上げます。令和7年度税制改正において不動産に関連した改正がいくつか行われていますが、主なものを3つ取り上げます。
Ⅱ 中小企業経営強化税制の拡充措置により、建物が特例税制の対象に
1. 中小企業経営強化税制におけるB類型の拡充
令和7年度税制改正により、中小企業経営強化税制の拡充措置が講じられました。売上高100億円超を目指す成長意欲の高い中小企業の設備投資に対してインセンティブを与える趣旨のものであり、一定の要件を満たした建物およびその附属設備も対象になる点がポイントです。
具体的には中小企業経営強化税制のB類型についての拡充措置です。本税制の対象となる特定経営力向上設備等に、その投資計画における年平均の投資利益率が7%以上となることが見込まれるものであること、および経営規模の拡大を行うものとして経済産業大臣が定める要件に適合することにつき、経済産業大臣の確認を受けた投資計画に記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備(機械装置、工具、器具備品、建物およびその附属設備ならびにソフトウエアで、一定の規模以上のもの)が対象に追加されました。
基準事業年度の売上高が10億円超90億円未満である事業者が、売上高100億円超および年平均10%以上の売上高成長率を目指す投資計画を作成し、当該投資計画に基づいて売上高の増加に貢献する一定規模以上の設備投資を行い、設備の導入に伴い建物およびその附属設備の新設または増設をするものであること等の要件が求められており、それらの要件に適合することにつき経済産業大臣の確認を受けることも求められます。
2. 適用に必要な経済産業大臣が定める要件
経済産業大臣が定める要件は、次の要件とされます。
①売上向上のための施策および設備投資時期を示した行程表(ロードマップ)を作成していること
②基準事業年度(経営力向上計画の認定を申請する事業年度の直前の事業年度)の売上高が10億円超90億円未満であること
③売上高100億円超を目指すための事業基盤、財務基盤および組織基盤が整っていること
④売上高100億円超および年平均10%以上の売上高成長率を目指す投資計画であること
⑤次の要件を満たす設備投資を行う投資計画であること
イ 導入予定の設備が、売上高の増加に貢献するものであること
ロ 経営力向上計画の認定を受けた日から2年以内に導入予定の設備の取得価額の合計額が、1億円と基準事業年度の売上高の5%相当額とのいずれか高い金額以上であること
ハ 生産性の向上に資する設備の導入に伴い建物およびその附属設備の新設または増設をするものであること
⑥投資計画の計画期間中において、給与等の支給額を増加させるものであること
⑦上記のほか、売上高100億円超を目指すために必要とされる要件を満たすこと
適用を受けるためには、中小企業庁の運営する「100億宣言」の申請および登録を受ける必要があります。手続については、中小企業庁のホームページ掲載「100億宣言申請要領」等をご参照ください。なお、100億宣言の登録を受けた中小企業は、中小企業成長加速化補助金の対象にもなります。
設備の導入に伴う建物およびその附属設備の、最低取得価額要件ですが、一の建物およびその附属設備の取得価額の合計額が1,000万円以上のものが対象になります。
なお、上記の設備には、医療保健業を行う事業者が取得等をするものおよび発電の用に供する設備で主として電気の販売を行うために取得等をするものを含みません。
Ⅲ 中小事業者等の固定資産税の特例措置の改正と適用期限の延長
1. 特例措置の対象となる事業者
中小事業者等の固定資産税の特例措置とは、資本金1億円以下の一定の中小事業者等(注)が、市区町村の認定を受けた計画に基づいて取得した一定の建物附属設備、機械装置、器具備品などについて固定資産税が軽減される措置です。中小事業者等のうち、先端設備等導入計画の認定を受けた者(大企業の子会社を除く)が対象になります。
(注)対象となる中小事業者等とは、具体的には、次の要件を満たす法人または個人です。
①資本金の額または出資金の額が1億円以下の法人(大規模法人に発行済株式総数等の2分の1以上を所有されている法人等を除く)
②資本または出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
③常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人
2. 対象となる設備
対象となる設備は、年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれる投資計画に記載された投資目的を達成するために必要不可欠な次の①~④の設備です。
【対象となる減価償却資産の種類(最低取得価格)】
①機械装置(160万円以上)
②測定工具および検査工具(30万円以上)
③器具備品(30万円以上)
④建物附属設備(償却資産として課税されるものに限る)(60万円以上)
従来と同様に、中小企業等経営強化法に規定する市区町村の導入促進基本計画に適合し、かつ、労働生産性を年平均3%以上向上させる内容であること、投資利益率が5%以上となることが見込まれている投資計画に記載された一定の設備であることが要件とされます。
3. 適用を受けるための手続
(1)基本的な手続
認定経営革新等支援機関(注)による事前確認を受けた後、先端設備等の導入先の市区町村に対し、先端設備等導入計画の申請を行います。対象設備が投資利益率の要件を満たすことについて、申請前に認定経営革新等支援機関による事前確認を受ける必要があります。
(注)認定経営革新等支援機関とは、商工会議所、商工会、中央会、地域金融機関、士業等の専門家などで、経営革新等支援機関の認定を受けた者です。
市区町村から認定を受けた後、設備を取得しなければならない点に留意する必要があります。また、税務申告の際は所定の書類を添付する必要があります。
(2)令和7年度税制改正による追加的な要件
令和7年度税制改正により、賃上げ目標の計画への位置づけが必須とされました。赤字企業を含めた中小企業の前向きな投資を後押しするため、賃上げを行う企業を対象に、赤字黒字を問わず設備投資に伴う負担を軽減する趣旨のものであり、固定資産税の特例措置の適用期限が2年間延長されるとともに、賃上げ率に応じて、軽減率を引き上げる内容に改められました。雇用者給与等支給額の増加割合が1.5%以上となることを計画に位置付けるとともに、労働者に表明することが必要です。
雇用者給与等支給額が1.5%以上増加することを表明した場合は、課税標準を3年間1/2に軽減、雇用者給与等支給額が3.0%以上増加することを表明した場合は、課税標準を5年間1/4に軽減するものとされました。
令和9年3月31日までに取得した資産について適用されます。
Ⅳ 住宅ローン控除の一部見直しと適用期限の延長
住宅ローン控除の子育て世帯等に対する借入限度額の上乗せ措置が、引き続き実施されることとされました。住宅ローン控除の一部見直し内容は、次のとおりです。
第1に、特例対象個人(注1)が、認定住宅等の新築等(注2)をして、令和7年1月1日から同年12月31日までの間に居住の用に供した場合の控除対象借入限度額を上乗せするものとされました。借入限度額について、子育て世帯・若者夫婦世帯が令和7年中に新築住宅等に入居する場合には、令和4年から6年入居の場合の水準〔認定住宅:5,000万円、ZEH水準省エネ住宅:4,500万円、省エネ基準適合住宅:4,000万円〕が維持されるという意味です。
(注1)夫婦のいずれかが40歳未満の者または19歳未満の扶養親族を有する者
(注2)認定住宅等の新築もしくは認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得または買取再販認定住宅等の取得をいいます。「認定住宅等」とは、認定住宅、ZEH水準省エネ住宅および省エネ基準適合住宅をいい、「認定住宅」とは、認定長期優良住宅および認定低炭素住宅をいいます。また、「買取再販認定住宅等」 とは、認定住宅等である既存住宅のうち宅地建物取引業者により一定の増改築等が行われたものをいいます。
第2に、認定住宅等の新築または認定住宅等で建築後使用されたことのないものの取得に係る床面積要件を40㎡以上とする緩和措置について、令和7年12月31日以前に建築確認済みの新築住宅を対象とするものとされました。すなわち、建築確認の期限が1年延長されました。
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