基幹プロジェクトに加わる期待。
自らの経験を活かせるチャンス。

京橋エドグランの竣工から遡ること2年前の2014年。品川区で手掛けた再開発事業が竣工を迎え、再開発組合の解散に向けて事業の整理に追われていた宇佐見は、ふと、初めて担当した再開発現場のある光景を思い起こしていた。
「こんな光景を目にする時が来るとはなぁ。」宇佐見は目の前の更地を眺めながら、メンバーらと共にある種の充実感に満たされていた。都心から少し離れた都内某所。権利者からの権利変換同意を取りまとめ、都知事認可を得て、今まさに解体工事が終わった現場にいた。この場所で住まい、働き、時を重ねてきた人々は既に退去、仮移転し、まっさらな地面だけが現場を囲う白いフェンスのなかに広がっている。周囲の喧騒とのコントラストがより静けさを際立たせる。「都心部のまとまった広さの更地というのは滅多に見られない光景で、実際に土地を目の前にするとそれまでのさまざまな苦労が思い起こされます。同時に、これからこの土地で始まるプロジェクトへの期待感も生まれる。個人的には建物の完成よりも現場が更地になった時の方が、高揚感があるかもしれません」
宇佐見が担当替えを命じられたのはそんな時だった。「京橋に行って欲しい。」
宇佐見は、「ついに来た。」と思った。「かねてよりこの事業が当社にとって基幹プロジェクトになるのは分かっていましたし、これまで同じ部署で京橋担当のメンバーが重たい課題をひとつひとつ乗り越えながら推進する姿を見てきました。
権利変換や工事の発注など、事務局としての大きな節目は終えてはいましたが、この先建物をしっかり完成させるとともに、完成後に向けて管理運営計画を取りまとめ、円滑に運営が開始できるように準備しなければいけません。
これまでの経験を活かしてプロジェクトに貢献したいという決意と基幹プロジェクトを担当する重責に、身の引き締まる思いでした。」
2014年2月。宇佐見は京橋の開発プロジェクトの担当となり、事務局の次席として再開発組合の運営を取り仕切る日々が始まった。

合意形成に近道無し。
建築工事の
進捗・品質管理も自らの足で。

宇佐見が京橋を担当することになってすぐに、プロジェクトを統合的に推進するための組織として「京橋事業部(当時)」が設立された。
京橋事業部の中心的な役目は主に2つある。ひとつが再開発組合から委託を受けて事業推進をするデベロッパーとしての立場。もうひとつは再開発組合のなかで組合運営全般を取り仕切る事務局の立場だ。宇佐見の主な仕事は後者だ。
「組合事務局は、40名を超える権利者の熱い想いを背負い、700億円に迫る事業費をお預かりして事業を推進する立場です。一人ひとりの権利者とのやり取りを通じそれぞれの想いを受け止めていた身として、一切の妥協は許されないと常に自分に言い聞かせながら取り組みました。」
再開発組合の事務局メンバーは事務局長以下6名で構成される。宇佐見は次席として、再開発組合を運営するなかで日々難しい舵取りを迫られる事務局長を実務面から支えるとともに、特に『管理運営計画の策定』『建築工事の進捗・品質管理』『事業予算の適切な管理と業務執行』に注力した。
「京橋エドグランは、区分所有者となる多くの権利者により組成する管理組合がビルを運営することになるため、管理運営計画のなかでも核となる管理規約を詳細に作り込む必要がありました。付属規則を含めると、厚さは約30cm。権利者それぞれの立場が異なるがゆえに当然考え方も異なります。そのようななかで、それら条文のひとつひとつについて権利者の合意を得る作業は困難を極めました」
合意形成に近道はなく、丁寧に繰り返し説明し理解を得ていくしか方法はない。宇佐見はメンバーと共に権利者のもとに奔走し、合意形成を積み重ねていった。一方、建築工事の進捗・品質管理の面では、設計会社やゼネコンに任せきりにするのではなく、社内技術部門と連携し自ら現場を巡回し直接確認していった。
「細かな問題や不具合もきちんと拾いあげ問題を検証し、原因を突き止め改善し、そして品質を検査する。品質的に問題がないことが確認できるまではこの繰り返しです。」
内装、外装などの最終仕様は、工事期間中に決定していくことになる。決められた予算のなかでバリューを最大化するために、ベストな選択をしていく。プロジェクトはいよいよ大詰めに差し掛かった。その仕上げに待つもの、それはランドスケープの造り込みだった。施設の価値に大きな影響を与えるランドスケープ計画。宇佐見にはどうしても実現したい、ある想いがあった。

根ざし、育ち、実を結ぶ。
『Like A Big Tree』
コンセプトを体現する
シンボルツリーを探しに山へ。

ランドスケープとは、主に建物低層部の景観を構成する植栽やベンチ、アート等の要素のことを指し、その繋がりが都市景観を形成してゆくため、非常に重要な計画となる。
「権利者と共に定めた施設全体のコンセプトは『Like A Big Tree』。プロジェクトの成功には、コンセプトを体現するランドスケープの造り込みと樹木の選定が必要だと考えました。デベロッパーとして都市景観に貢献する責任がありますし、低層部空間を魅力的なパブリックスペースとして創出することは、来街者や在館者の満足度を高め、ひいては施設の付加価値向上にも繋がります。」
宇佐見は残された予算を頭に浮かべつつ、ランドスケープデザイナーと共に計画をブラッシュアップすることにした。都心に居ながら植栽の彩りや香りなどで四季の移ろいが感じられ、洗練されたデザインのベンチやファニチャーを配置して『心地の良い居場所』を造る計画だ。
コンセプトに相応しいシンボルツリーの選定も重要なミッションだ。事業部の主要なメンバーらは連れだって山へと向かった。履きなれない長靴を履き、土にまみれ、汗を流しながら何時間も歩いて探した。全員が「これだ」と思えるものを探すために。
山の中腹に差し掛かった時、宇佐見の目に、高さ15mもあろうかという株立ちの立派な山桜が目に入った。季節は春ではなかったが、その見事な樹形に満開の桜が花開く様子を瞬時にイメージできた。
「これだ」メンバーに声をかけると、皆も納得の笑顔だった。京橋エドグランの中央ひろばに移植されたその桜は、翌春、宇佐見のイメージ通りに満開の桜を開花させた。
「根ざし、育ち、実を結ぶ。 Like A Big Tree」—。
開発コンセプトがその言葉通り実を結んだ瞬間だった。

京橋エドグランを創りあげたこと。
それが中央日土地の今後の強みになっていく。

当社の強みは組織の総合力で困難を乗り切れることだと宇佐見は語る。
「京橋は権利者・行政の街づくりへの想い入れが強く、さまざまな場面において合意形成が難しいプロジェクトでした。事務局と本社事業推進チームとで連携を密にして、連日連夜、事業関係者も交えて議論を交わし、数えきれないほどの困難を乗り越えてきました。ある権利者さんからは、『上から下まで誰と話しても同じことを言う。組織的に一丸となって取り組んでいると感じた。』と言っていただきました。」
当社の再開発は、権利者をはじめ多くの事業関係者と共に創り上げることを信条としている。合意形成の積み重ねからなる「共創」は苦労が多く、手間も時間も必要になるが、結果として付加価値の高い開発が実現できる。
「それぞれの想いに向き合い乗り越えることで、数多くの想いが詰まった魅力的な施設を創りあげることができます。」と宇佐見は語る。古くから再開発事業に取り組んできた当社にとって、京橋エドグランはこれまでの多くの積み重ねが結実した集大成となった。

再開発事業は、社会的意義が大きい仕事と語る宇佐見。「再開発の大先輩の口癖は、『再開発は、右手にロマン、左手にソロバン、背中にガマン。』でした。ソロバンやガマンの部分で苦労は多いのですが、やはりロマンの存在が大きい。安心安全で賑わいあふれる魅力的な街に再開発することは、社会的意義が大きいダイナミックな仕事です。」再開発事業が完了すると、記録を保存するために再開発事業誌を作成するのが慣例。事業誌のなかで、事務局員として宇佐見は最後にこう寄稿した。
「世のなかに数多くの仕事があるけれど、私にとって、再開発ほど『やりがいの大きな仕事』はありません。京橋エドグランという素晴らしいプロジェクトに出会えたことは、『幸運』の一言に尽きます。人生の財産として蓄え、次に出会うプロジェクトに活かしいくことが、京橋エドグランでお世話になった皆様への恩返しになると信じています。」

※記載内容は取材当時のものになります。